クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
総務部長が先月退職され、井戸川課長が繰り上がる形で、総務部長に昇進。それに伴い、私が課長にという話が出てしまったのだ。
秘書課の須藤課長を始め女性の役付は何人かいるけれど、32歳でというのは富士ヶ嶺始まって以来らしい。

「私は何もしてないので」
「何言ってるんですか。二課での実績と、人事での教育プログラムの成功があるから当然ですよ！社長が会議で『総務の阿木さんを昇任させよう』って提案したって噂ですよ！」

人事に移ってすぐに、私が手がけたのが、新入社員向けの教育プログラムを見直しと、大学生向けのインターンプログラムの改変だ。これが大きな取り組みとなり、就活生向けのサイトやイベントで大々的に取り上げられたのだ。
どうやら、今回の昇進は成果に対する評価らしい。
私はただ粛々と自分の仕事をしただけなんだけどなぁ。離れて暮らす恋人に負けないように。

「私ひとりの力じゃないのよ。みんなの協力があったから」

肩の力を抜いて、人を信じ頼る。しなやかに柔軟に。そんなところは彼からのアドバイスを参考にしているところはある。

仕事熱心な方ではないと思っていた。ただ、真面目なだけ。
でも、ここ数年の私はちょっと違うかもしれない。この会社で頑張っていきたい。この場所は私にとって大事な場所なのだから、守りたい。

「次期人事課長は謙虚だねぇ！野口くーん、きみの教育がよかったのかなー？」

井戸川課長が二課のデスクで消しゴムドミノをしている野口課長に声をかけた。野口課長は驚いてドミノを倒しつつ、苦笑いだ。

「阿木さんに追いつかれちゃうから、複雑だな〜」
「野口課長も頑張って常務とか目指してくださいよ」

山根さんの言葉にみんなが笑った。
毎日が充実している。そんな実感がある。
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