クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「千石さん、イケメン御曹司だった~」

頬杖をついて、ほわんほわんと花を飛ばさんばかりに言うのは山根さんだ。

「しかも、早速真純先輩からお仕事預かってるじゃないですか」

本日、私たちは給湯室横の自販機と簡易カウンターのある休憩スペースで、買ってきたサンドイッチをお昼ごはんにしている。山根さんの向こうで持田さんが鼻を鳴らす。

「イケメンだったし、仕事できそうだけど、いきなりこなれた感出し過ぎ」

持田さんはあまり気に入らない様子だ。確かに午前中の千石くんは、私の社内案内もそこそこに渉外の仕事をいくつか引き継ぎ、明日には各所の担当者に挨拶に行くアポイントを取り付けてしまった。このアポイントは私も同行することになっている。

「あと、真純先輩に馴れ馴れしい感じがする」

持田さんの言葉に、サンドイッチを飲み込み損ねてむせそうになってしまった。嘘、そんな風に見えていた?私は意識的に距離を置いていたつもりなんだけど。

「真純先輩、気を付けてくださいね!あれだけイケメンだし、エリートだし、お金はあるんだから、遊びまくってますよ!」
「遊んでる……ねぇ」

東京タワーで出会った彼は、世界を放浪する旅人だった。
髪も茶色が目立ち、立ちあげていたので幼く見えた。遊んでいるとしたら、女遊びではなく人生を遊んでいるように見えた。

「のんきですねぇ。真純先輩が狙われるかもって話ですよ」

持田さんに言われ、私は笑った。

< 18 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop