クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「それはないでしょう。彼二十六歳だっけ?私が四つも上だし、そもそも社内だし」
「ああいうタイプの遊び人は上質な女を好むんですよ!若いってだけじゃ駄目。色香があって、艶やかで、仕事ができるいい女を、上手に引っ掛けるんです!」

鼻息あらく説明する持田さんに、山根さんが唇を尖らせ言う。

「持田先輩、妄想具体的すぎです~。ああいうタイプに遊ばれたことアリですか~?」
「うるさいわね、山根!そんなんじゃないわよ!」

私はまあまあとふたりをなだめつつ、わからない範囲で嘆息した。

ちゃんと言った。同僚と妙な関係になる気はない。そして彼はそれを理解した。
いい出会いだった。そして困惑の再会だった。それ以上にも以下にもならない。

社内恋愛なんてまっぴらだし、そんなことに浮かれられる年齢でもないのよ。
さらに相手はこの会社の後継者だ。将来的に考えても、良い同僚の距離でいるのが一番。

「あ、来週総務部全体の歓迎会ですよね。真純先輩仕切りじゃないですか。それも千石さんとやるんですか?」

山根さんに聞かれ、そうだったと思いだす。
秋の人事異動で先週から総務部も新しいメンバーが増えた。中途採用者もいるし、ちょうどいいからと歓迎会をやることになっていたのだ。

「そうね。たいした仕事じゃないけれど、部内の仕切りはこれからもちょくちょくあるから経験してもらいたいかな」
「千石さんも歓迎される立場ですけどね」
「言われてみれば」

歓迎されるべき新人だけど、全然そんな感じがしないのは、私たち三人誰もが思っているだろう。一度自ら起業を立ち上げているし、落ち着き切ったオーラが、なんとも新人らしくない。
あの日は随分若く見え、少しチャラチャラした感じがあったのに、スーツでびしっと決めると、だいぶ印象が変わる……。って駄目駄目、またそんなこと考えて。

「流れだけ説明して、たぶん仕切りは私がやるわ」

私は薄く微笑み、サンドイッチの空きパックをがさがさと片付けた。

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