クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
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「お疲れ様でしたー」
「気を付けて帰れよ!」
「二次会やる連中はほどほどにしろー」
新宿の都庁近くの居酒屋はオフィス街にある料亭風のお店だった。高層オフィスビルの一階テナントに入っているため、店内は広く、また店の前も歓楽街と違い混み合っていない。店の選定は千石くんだ。総務部の面々はここでしたたかに酔い、店の前で解散したところだ。
総務部の歓迎会はつつがなく終わった。
私が会計と会場の最終チェックを終え、居酒屋を出ると、千石くんは女子社員に囲まれていた。一課の新入社員や人事課の美人、秘書課の女の子たちも千石くんを取り巻いている。今日は彼も歓迎される立場なので、セッティングはお願いしたけれど、当日の仕事は何もしなくていいと言ってある。
案の定、この会社の御曹司であり、すでにできる男オーラバリバリの千石くんは女子社員の注目の的になっていた。端正な顔に微笑みを浮かべ、アルコールが入っているとは思えないほど爽やかに会話に花を咲かせている。
「真純先輩、私たちも解散で大丈夫ですよね」
持田さんが尋ねるので、私は頷いた。今日は帰るだけ。平日の会だったので、二次会三次会に行くメンバーもそう多くないだろう。
「千石くん、二次会行こうよ」
人事課の井戸川課長が大声で誘うのが聞こえる。
五十代の井戸川課長は、部の若手よりパワフルで、こういう場は絶対一次会で終わらせない人なのだ。私も何度か付き合ったことがあるけれど、ずーっと飲み続け喋り続けるので、付き合う部下は結構大変だ。