クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「私、飲むとすぐに赤くなるの。見た目ほどは酔ってないのよ」
「そうなんですか」

わずかに間があった。
新宿の夜。オフィス街を抜けるビル風の音だけ響く。

「酔っていればちょうどよかったんですが」

声がちょっと近づいた気はした。
次の瞬間、長い指が私の顎を捉えた。
あ、と思う暇もない。顎を持ち上げられ、そのまま私の唇に千石くんの唇が重なった。

柔らかいコーヒー味のキス。優しい感触と、温度。
数秒の後、呆気にとられる私から千石くんが離れた。

「酔っていないなら、不意打ちがいいかと思いまして」
「なに……するの?」

私は呆然と問いかけた。
あなたと私は同僚。先輩後輩。わかってくれたんじゃないの?言葉にならないあれこれが脳裏を駆け巡る。

「真純さん、あまりに揺れないから、少し試してみたくなりました」

そう言った彼は、善良な笑顔のままだったけれど、その瞳はあの夜見た透明で印象的なものだった。そして、その奥には今まで見たことのない光があった。

野蛮で純粋。強い強い別種の生き物の光だ。

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