クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
一体どういうことなのか知らないけれど、我が社の社長令息・千石孝太郎は私のことを狙っているらしい。

歓迎会の夜、彼は私にキスをした。これからアプローチを始める的なことも言った。あの瞳は伊達や酔狂で言っているわけじゃなかった。

はあ、ため息が止まらない。はあ。

一体全体どうして4つも年上の女にそんな気を起こしたのか、私には理解できない。
163センチ、若い頃は痩せていると思っていたけれど、三十代になってから骨が浮いていると感じるようになった貧相な身体。アレンジもヘアアクセも無縁なアップにした髪。地味目な顔立ち。後輩はクールでカッコイイと言ってくれるけれど、実際は愛想が悪くて、そして頭の中ではいつもちょっとしたことでパニックを起こしてしまう気の小ささ。
あんな別世界の住人に好きになってもらえる理由、どこにもないじゃない。

あ、わかったぞ。珍しい出会いに惹かれるものがあったってやつだわ。女に苦労しないイケメン御曹司に、一種のつり橋効果が表れてるんだわ。
でもそんな恋心は光の速さで覚める。すぐに飽きる。世界中巡ってフリーハグなんかするような人だもの。人生のスパイスはつねに求めているに違いない。そして、私なんかを手に入れても、彼の期待するスパイスが無い以上早々に飽きることは目に見えている。

次にあり得そうなのは、彼が生粋の遊び人ではないかということ。
あの整った容貌。目鼻立ちは若手俳優くらい整っていて、通りすがりの人だって振り向くレベルだ。身長は高く、艶やかな低い声も素敵だと、多くの女性は思うに違いない。
日本でも外国でもモテないわけがない。そんな遊び人が、たまに毛色の変わった女を相手にしてみるのもいいと考えたんじゃない?

年上で自立した女は後腐れがなさそう?簡単に遊べそうな相手だと思ってる?それとも、上司だから適当に寝てご機嫌取っとこうとか?

どちらにしろ、相手にすれば馬鹿を見るのはこっちだ。
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