クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
千石くんは最近ずっとこんな調子だ。
基本は賢い部下。上司の私を完璧にサポートしつつ、自らもどんどん仕事をこなす。
しかし、ちょいちょいこういった誘いや愛情表現を挟んでくるのだ。それがまた絶妙。こちらが拒否すればさっと引く。しかし、けしてめげない。

同僚には絶対バレないよう配慮している。今みたいに誰もいない自販機前でアプローチしてきたかと思えば、普通にデスクでもこんな風にアピールする。しかし、声も表情も普段通りだから、彼が私にアプローチしているなんて近くで聞き耳をたてていないと気づかないのだ。
まったく、女子を口説き慣れた男は巧妙だわ。

私は話を戻すため、表情をいっそう硬くして、続ける。

「ともかく、室内でプロジェクションマッピングをするのに相応しい会場を探さなきゃならないのよね。壁一面だけ空けられる、じゃ足りないわ」
「そうですね、アーティスティックな演出を入れるとはいえ、業務紹介ですからあまり障害物がなく、投影しやすいフロアが必要ですね」
「専門家も交えて、打ち合わせが必要じゃない?」
「営三の八木さんに打ち合わせを設定してもらってあります。明後日の木曜には」

相変わらず仕事が早いったらない。私が指示しようとすることはだいたい先回りしてやってあるのだから、部下としてこの上もなく気が利くと思いつつ、その優秀さに若干の面倒くささも覚える。
どうして、彼は総務にいるのかしら。いったい、いつまでいるのかしら。

「じゃあ、今日明日中に会場決めないとだわね」

私は低く呟き、昨日集めた会場候補の中から使えそうな場所を頭の中でピックアップした。
今日の午後か、明日には直接現場を確認してきたい。
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