クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
仔牛のソテーをぱくぱく口に運んでいると、千石くんが吹き出すように笑った。
何よ、がっついてた?

「真純さん、真剣に食べてるの、可愛いですね」
「からかわないで。残したらもったいないから美味しくいただいてるの」

もったいないって言葉を使おうか悩んで、口にした。これ以上料理を増やされても困るし。

「この後、パンがたくさん出てきますよ」
「そんなに入らない」
「真純さんが望むだけ取ってください。デセールもあります」

焼きたての小さなパンの数々は朝食で出てきたら10個くらい余裕で食べられそう。でも、今日はひとつでやめておく。お腹はいっぱいで、ワンピースがきついくらい。そして、ワインでほろ酔いなんだよね。
デザートは出てきたシャーベットで終わりではなく、メインはいちごのミルフィーユだった。ケーキ屋さんで並んでいるようなパイ生地が何層にもなっているものではなく、丸いパイふたつの間にいちごとクリームが挟まっているシンプルで可愛らしいものだ。
コーヒーに小さなマカロンがついて、食事は終了。

「どれもとても美味しかったわ」

正直お腹がいっぱいで苦しくてしょうがないんだけどね。
美味しいものだらけだったから、メニューやワインの話ばかりで終始していた。艶っぽい話にならなくて助かったと思ってる。

「頬が赤いです。飲ませすぎてしまいましたか?」
「前も言ったけど、赤くなるのが早いだけ。ひとりで帰れるから」

前はこの流れでキスされてしまったのだ。もうそんな隙を見せるわけにはいかない。

「まだ余裕があるようでしたら、一杯だけ付き合ってもらえませんか?」

いえいえ帰ります。もうさっさと退散します。
口の中で唱えていると、千石くんが私をじいっと見つめる。

「お見せしたいものがあるんです」
< 60 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop