クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「やだ、何もないわよ。普通にレセプションの反省会をしながら食事しただけ」
「え~?そうなんですか~。残念」

山根さんがあからさまにがっかりする。山根さんが期待する類の出来事は起こってるけど、私的にまったくノーサンキューな展開です。割愛させていただくわ。
持田さんが困り顔で弁明する。

「すみません、過剰な心配をしてしまいました。千石さん、お金持ちの御曹司だし、立場にものを言わせて真純さんに無理なことを迫ったんじゃないかと。私の考え過ぎでしたね」
「彼、自分の立場は平社員だとしか思ってないみたいよ。その点は大丈夫。それに彼からしたら私はおばさんよ」

小細工無しで真っ向から求愛されてるなんて言えない。
私は大袈裟なくらい明るく笑って、何もないアピールをしなければならなかった。


いつも通り仕事をしていると、割合気分はまぎれる。
アラサーという年齢に達し、同じ業務は当たり前のように慣れ、一緒に働く顔ぶれも長年変わらなければ、それはラクというものだ。しかし、同時に若干の倦みという気持ちも否定できない。
このままここで似たような慣れた仕事を定年まで勤め上げるの?
お金のためとはいえ、人生を無駄に消費している気分にならない?
安定こそが安楽な人生への鍵だと思いつつ、もう三十になったから冒険できないとひよる私がいる。
そうだ、御曹司求愛事件はいいきっかけかもしれない。
いよいよ耐えきれなくなったら転職しよう。
守りに入らず、もう一度新しい環境で人生を構築できるか、試してみればいいんだ。
ちょっと気が楽になってきたぞ。
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