クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「俺にももっと隙を見せてくださいよ。今度は遠慮せずにあなたを抱くから」

間近に迫る千石くんの顔。怒りながら迫るなんて馬鹿みたい。
隙？普通に接していても隙？
あなたが気に入らないだけでしょう？勝手に自分の理想を押し付けるんじゃないわよ！

「私が誰と食事に行こうが千石くんには関係ないわ」

毅然と彼を睨みつけた。近づいていた唇が止まり、彼が私を冷たい視線で見据える。

「男と女が揃ったらすぐに恋愛？フリーハグしてた博愛青年の言葉とは思えないわね。馬鹿みたい。あなたと横手さんの色恋沙汰に巻き込まれて、そのフォローに来てくれたのよ、泉谷さんは。妙な揶揄をされる筋合いはないわ」

負けてなるものかと千石くんの厚い胸板を押しのける。私の強い態度に、彼は一歩引いた。気圧されたというより譲ったという様子だ。

「部下という点を除いても、千石くんのこと、到底好きになれないわ」

千石くんが唇を引き結ぶ。珍しくも悔しそうな表情は最初に出会った時の幼く無邪気な雰囲気に似ていた。

「俺だって……どうしてあなたみたいな人が欲しいのか……わかりませんよ。冷たくてお堅くて……俺のことなんか興味もない人……」

呻くような千石くんの言葉に胸がずきりと痛む。私にはその痛みの説明ができない。
千石くんが顔を上げた。その表情はまだ苦しげに歪んでいた。
しかしその瞳はまっすぐで鮮やかな彼の瞳だった。

「でも、俺はあなたが好きだ。あなたを振り向かせる。絶対に諦めない」

力強く言う彼から視線を背け、私は逃げるように階段を降りた。走ってエントランスを飛び出す。

早くここから逃げ出したい。早く、あのまっすぐな視線から抜け出したい。
なんなのよ、千石孝太郎。
勝手に好きになって、勝手に怒って。意味が分からない。



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