クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした





翌々日の昼休みのことだった。
私は社内の小会議室に呼び出されていた。
呼び出したのは横手さん。その横には引率の先生ポジションで泉谷さんがいる。

なお、私の横には山根さんと持田さんが控えている。大丈夫だと言ったんだけど、『横手とふたりきりにするわけにはいきません!』とふたりともディフェンス姿勢で言うのだ。
まあ、このふたりは横手さんの恋の相手が千石くんだってバレてるからいいか。

「騒ぎ立てて申し訳ありませんでした」

入室するやいなや、こちらの態勢も整わないうちに横手さんが頭を下げた。最敬礼で言うので顔は見えないけれど、声はすでに涙声で、床にぱたぱたと涙の粒が落ちている。気の強い態度はどこへやらだ。

「横手さん、顔を上げて」

もしや泣き落としで許してもらう作戦?と恐る恐る近づくと彼女が顔を上げた。
化粧はぐしゃぐしゃに崩れ、目は腫れぼったい。普段はくるくるふわふわ柔らかそうな髪もへアイロンも当てずにひとつにまとめておる。
こんなにシオシオに凹んでる女の子を見て、作戦とか疑えなくなってしまった。たぶん、秘書課でこってりしぼられたんだろうな。

「こうちゃんに……孝太郎さんに言われて……カッとなりました。阿木さんが困ればいいと思って全部大袈裟に言いました。本当にすみませんでした」

山根さんが私の前に出て文句を口にする。

「横手さぁ、あんたのでたらめが真純先輩の初スキャンダルなんだよ?どーしてくれんのよ!」

さすが同期、遠慮がない。
いや、山根さんの性格が遠慮ないのだ。持田さんの方が山根さんを抑えようと袖を引っ張っている。
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