クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「真純先輩の評判落としてごめんなさいで済むかってーの!」
「本当にごめんなさい。……孝太郎さん……本気みたいだから……阿木さんの方から引いてくれればって思って、つい」

ついじゃねーよ!と声を荒げる山根さんを持田さんが後ろに下げた。

「でも、それは千石さんと真純先輩の問題では?」

持田さんが言った。この辺りで私は熱くなる頰を隠したくて俯かなければならなくなる。
千石くんの私への好意が、この場にいる人間には周知のものとなっていることに改めて恥ずかしさがわいてきた。

「私だって、ずっと孝太郎さんが好きだったから……急に出てきてずるいって思って……」

泣きじゃくりながら訴える彼女は、まだほんの子どもだった。頭を撫でてあげたくなるくらい。
甘いのかもしれないけど、これ以上怒りたくない。

「横手さん、私は千石くんを部下としてしか見ていません。だから、あなたが千石くんを好きでも問題ないと思います」

言いながら胸の奥がチリっと痛む。
痛くない痛くない。痛くなる理由がない。

「でも、千石くんが誰を好きになるのも自由です。それは、誰にでも言えること。妨害はフェアじゃないけど、横手さんはもっと自由でいい」

すると、横手さんが涙でぐしゃぐしゃの顔をこっちに向けた。

「親に……結婚をしろと言われて……お見合いの話があって……。恋人がいて、それが孝太郎さんなら文句を言わないと思ったんです」

あ、やっぱり。想像どんぴしゃ。

「ずっと好きなのは本当で、孝太郎さんと結婚したい気持ちはあるけど、妹にしか見られてないのもわかってました……。だけど、こんな気持ちのまま結婚したくないし……」
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