クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「そのご長男がね、総務部に配属になるんだ」
「そうなんですか」
「そして、人事課の井戸川課長がうちで面倒見てくれって言うんだ」
「それは、総務二課に配属ってことですか?」

さすがに私も眉間にしわをよせた。会社の将来を担う人物は、普通は営業部のどこかに回されるものじゃないの?もしくは海外事業部みたいな語学や海外経験を活かせる華々しい部署に配属とか……。

「なんでも社長のご意向でね、会社の骨格がわかり、人や物の流れがわかる部署へ入れたいって言うんだ。いやぁ、それにしたって、なんでうちなのかなぁ」

しょぼしょぼ背を丸める課長は年より上に見えるほど重圧を感じている様子。自他共に認める窓際族の野口課長にまわってきた大役だ。

すると、課長の首にがしんと腕を回す人物が現れた。人事課の井戸川課長だ。総務一課、二課、人事課は同じフロアの同じオフィスで仕事をしている。井戸川課長は私たちのやり取りに聞き耳を立てていたのだろう。

「総務二課以上に適所はないでしょ〜」

ね、阿木さんと私を見る井戸川課長は調子の良い陽気なおじさん。
そんなこと言って、面倒ごとを私たちに押し付ける気でしょう。

「ご長男の千石孝太郎(せんごくこうたろう)くんは、眉目秀麗な二十六歳。スペインの大学を首席で出てる秀才だよ。向こうで起業していたアート系の会社はご友人に任せて、満を持しての帰国。本人にはプライドもある。社長の本音は穏やかな部署に入れて会社に慣れさせたいのさ。営業部古参のうるさ方や、勢いばっかりのルーキーたちの中に入れて苛々させたくないんだよ。わかるだろ?」
「そりゃあ、うちは穏やかだよ。ね、阿木さん」
「穏やかではあると思いますが……」

私はうーんと唸りながら頷いた。
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