クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
差し入れのあたたかなコーヒーに手を付けないのもなんなので、カップを手に取る。蓋をあけると湯気の立つカフェオレが入っていた。

「ありがとう」

コーヒーについてはお礼をする。わざわざ追いかけてくることはないと思うけれど。

「契約書、再チェックしてるんでしょう?手伝いますよ」
「いいわ、私の仕事だし」
「ふたりでやれば早いですよ」
「いいのよ。私が気になって余計に確認してるだけなの。千石くんは帰って」

しばし間があり、千石くんが口を開いた。

「自分が頑張ればすべてうまくいく。……そういった姿勢は自分にも周囲にもいい影響を与えませんよ」

カチンときて顔をあげた。ただの差し入れに来たわけじゃないようだ。
ミスがあり、もう二度と繰り返さないためにできることをしているというのに。

「俺はスペインの友人と三人で企業しました。埋もれているアーティストを発掘してマネジメントするプロデュース会社です。友人ふたりとは完全に分業体制でした。フォローはし合う。でも、お互いの領分は自分が主導し責任を取る」
「それは小さな組織だからできることでしょう?信頼関係のある友人同士だし」
「職場の人間に信頼はありませんか?」

返され、ぐっと詰まる。そんなつもりはない。でも……。
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