クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「真純さんが責任を感じるのは自由です。でも、そこですべての罪と責任をかぶってしまえば、部下の成長には繋がらない。ミスが起こらないよう努めるのは本人です。真純さんが人の分まで頑張るのは、ミスへの恐怖からに他ならないでしょう」

ずばりと言い当てられ、私は唇を噛みしめた。
そうだ。私は結局のところ、部下に仕事を振っておきながら、ミスが起こった途端信用できなくなってしまったのだ。
そして、自分が嫌な想いをしたくないから、しぶとく再チェックをしている。

「真純さんは今まで些細なミスもないように配慮しながら仕事をされてきたんでしょう。でも、今回のミスはさほど大きなものではありません。どっちみち、ラ・マレ側は文句をつける材料を探していただけです。この件がなくても他に難癖をつけますよ」
「そうかもしれないけれど……」
「全部、自分に責任を求めるのは性分かもしれませんが、やめたほうがいい。逃げ場を自分で潰して追い詰めて。悲劇のヒロインごっこは滑稽です」

言われてみればそのとおり。
気が小さい私は、ミスをすることにながらく恐怖感があったのだ。
それが誰の失敗でも自分のせいであると自分を追い詰めやすい。他人をどうこうするより、自分の中で決着をつけた方が楽だからだ。
これは人付き合い全般に対しても言える、私の性格傾向。だから、私は抱えきれなくなるとひとりで東京タワーあたりに逃避してしまうのだろう。

自分でわかっているけれど、他人に言われればむっとするもので、私は顔をしかめて押し黙る。一方、千石くんはにこっと爽やかな笑顔になった。
< 95 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop