クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
それは……私がいれば千石くんも来るだろうってことかしら。ふたりは幼馴染だしよく連絡を取り合っている。家の行き来もあるようだ。気を遣って、恐る恐る提案する。

「横手さん、私のことはいいから……千石くんを呼んだら?」
「違いますよ、阿木さん!!」

慌てる彼女は余計声が大きくなる。

「こうちゃんのことは今でも好きです。でも、それってきっとお兄ちゃんへの憧れなんですよね」

横手さんは割と冷静に、分析するような口調で言う。彼女の中で、ひと月前のことはだいぶ整理されてきているみたいだ。

「阿木さんにはすごくご迷惑をかけてしまいましたよね。あの頃は、意地になって阿木さんとの仲を邪魔したりしましたけど、どう考えても私自身に問題があったんです。私に必要なのは親のススメで結婚するんじゃなくて好きな人を堂々と親に紹介する勇気だと思うんです」
「憧れは……恋じゃないの?」

尋ねると、横手さんは苦笑いみたいに微笑んだ。

「私にはそうだったのかもしれません。憧れを恋にすり替えたのは、打算でした」

横手さんは一度言葉を切り、思い詰めたようにきっと私を見据える。

「……阿木さんは、まだこうちゃんの気持ちに応える気はないんですか?」

いきなり核心に切り込まれ、私は狼狽した。
自分の話から私たちの話に移っている。油断できない!

「まだもなにも。この先もないわ」
「こうちゃん、ああ見えて真面目なんですよ。お金持ってる男性って女性をアクセサリーみたいに考える人がいますけど、こうちゃんは付き合う時はいつも本気です。女遊びするようなタイプじゃありません」

幼馴染の証言はかなり信憑性がある。だけど、そもそも私と彼は立場が違い過ぎる。
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