深紅の薔薇姫に愛を
如月、という名前には聞き覚えがあった。

電車でいつものように会う、物静かな黒髪のイケメン。

幾度とその機会を合わせていくうち、あたしたちはしゃべるようになっていた。

聞くと学年は一個上だったから、あたしは彼を”如月先輩”と呼んだ。

ある日偶然のようにあたしたちは駅であった。珍しくお目付け役かとも思える幼馴

染の璃麻がいなかったことで、あたしたちは二人きりだった。そんなとき、彼はあ

たしに一緒にお茶でもしよ、といった。それから────

『麗薇ちゃん、好きなんだ。』

かしこまっていう彼。あたしはそのとき、ものすごく嬉しかった。

だけど、あたしには………あたしには琉がいた。

浮気なんて、許されない。そもそも、するはずがない。あたしも、琉が好きだった

から。だから、先輩のことはごめんなさい、と言った。

「わかってんじゃないの、」

あたしのことをフン、と鼻で笑った。そして、鋭い目をあたしに向けた。

「……おい、どういうことだよ、 」

痺れを切らしたような漣があたしたちのほうへ迫ってくる。

「璃麻、麗薇を離せよ。」

なんとも言えない、暗く怖いそのオーラ。地を這うような低い声にビクリとする。

漣は璃麻の腕を掴むと、あたしを無理やり離した。

その目は、あたしに何かを訴えているようだった。

すると、漣のスマホがうるさいくらいになり始めた。チッと漣は言い、電話に出た。

遠く離れていため、その会話は聞こえてこない。璃麻は穴を見つけたかのように笑

って、狂ったようにわらった。

「……あんたの、せいで、」
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