深紅の薔薇姫に愛を
「もって、ない……」

あたしと同世帯の女の子なら、浴衣ぐらいは普通に持っているのだろうか。

あたしはお父さんにもねだれない。おばあちゃんにもねだれない、

そもそも、おばちゃんはついもあたしを罵るのだ。

『この、出来損ないがっ!あんたなんか生まれないほうがよかったのよ!』

あたしを罵るのと同じく、あたしのお母さんである未薇(みら)のことも罵った。

だけど、あの人とあの子だけは褒めるのだ。

優しく、それから愛しそうな目を向けて____。

お父さんだって、あたしよりもあの子を愛していたんだと思う。

あたしはただ、身寄りのない可愛そうな出来損ない。

あの子はなんでもできて、それから父親の愛する人の娘。

それが、唯莉だった。

唯莉の母親も、おばあちゃんと同じだった。

『お前なんか、いなくなっちゃえよ!お前なんかいらない、消えろ!』

いじめのような、虐待のようなものを受けていたのを知っていたハズの父親も、彼女を止めなかった。

……ああ、あたしは誰にも必要とされていないのだと、身にしみる。

「じゃあ、買いにいくか!」

そう、言ってくれることが。

あたしのことを考えてくれることが。

なにより、幸せだといえる。

だけど、怖い。……また、いらないと言われてしまうのではないかと__。

あたしはずっとそばで見ていた。

お父さんが唯莉と亜衣梨に優しくするのを。

あたしにはむけない、そんな優しさと瞳の奥から滲み出す愛おしさ。

あたしは愛されて育たなかった。

愛を、知らなかった。

それなのに、こんな場面を見せられて。

いらないと、生まれて来なければと、あたしの唯一の味方と思えるお母さんを。

あたし自身をずっと否定されて__。

苦しかった。悲しかった。愛して欲しかった。あたしがここにいることを証明してほしい。あたしを、求めてほしい。

あたしだけが必要と言ってほしい。

あたしだけに優しくしてほしい。

壊れるぐらい、きつく抱きしめて欲しい。

お前だけしかいないとそんなふうに言ってほしい。
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