深紅の薔薇姫に愛を
「れーらー!大好きー!」

なんて言いながらあたしのほうへ走ってくる。

だけど、ただ、それは”フリ”なだけで彼は絶対あたしに抱きついてこない。

どんなに彼が自分が女が嫌いなのを隠して女好きにしているのをわかっていても、あたしには奇妙としか思えない。

どうして、苦手なのに逆のことをいっているのだろうか。

きっと、自分自身に言いたいのだと思う。

”もう、怖くない。もう、嫌いではない”と。

自分自身にそうインプットさせて、自分が強くなったのだと思いたいのだ。

「特別に、これあげる!」

そういって渡してきたのはたこ焼き。

誰も手をつけていないものだったので、あたしはお礼を言ってそれを貰った。

「あれ、もうすぐ花火じゃん。」

千鶴がスマホを開きながら、時刻と共にそれをおしえてくれた。

そういうと、引っ張られていく。

どこに行くのかわからないけど、あたしがずっと考えていたのは自然に握られた手だった。

不意にあたしの手を取ったのは漣で、がっちりあたしの手を握っている。

人が多くてはぐれないようにするためだろう。

あたしも、ここでははぐれたくない。

大きなお祭りなだけあって、彼らと会う確率も倍にはね上がる。

パッと手を離されたのは、静かな港にきてからだった。

あたしが座るよりも先に、花火の特有の音がして、真っ暗な空を割く。

大きく開いた花は色とりどりで、目を奪われる。

時折照らすあたしたちの顔。隣にいる漣の顔は静に微笑んでいた。

赤、青、黄色、オレンジ。

いろんな花が咲いて、いろんな花が散りゆく。

ハートの花火がみえた瞬間、右手に暖かい温もりが感じられた。

それは骨ばっていて、細くてながい、男特有の手の形。

あたしは、漣と手を繋いでいたのだ。
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