深紅の薔薇姫に愛を
格闘ゲームの音がなっていたこの部屋に、高い音が響いた。

あたしのスマホの着信音だ。

……どうせ、あたしにかけてくるのは菜月か華菜ぐらいだろう。

「もしもし……?」

画面も見らずに、あたしは電話に出た。

「……麗薇、愛してる。」

カシャン

その声を聞いた瞬間、あたしはスマホを地面に落としていた。

そんなあたしを不思議に思ったのか千紘がそれを拾う。

それから、スピーカーにした。

レラ、アイシテル

れら、あいしてる

麗薇、愛してる

そのことばがあたしの頭を駆け巡る。

「いやややぁぁぁぁぁぁ!」

その声に気づいた瞬間、あたしは倒れ込んで、耳を抑えていた。

『嫌い』『キエロ』『イラナイ』

やめて、あたしをそんなふうに言わないで。

お願い、あたしを否定しないで。

「なんだ、てめぇ。」

急に叫び、倒れ込んだあたしを千鶴が迎えに来てくれる。

その行動さえも、いまのあたしには恐怖の対象だった。

漣の今まできいたことのないような、低く乾いた声に体がびくつく。

『おまえは所詮、亜衣梨よりも下なんだよ。』

「麗薇、大好きだよ。」

スマホから注がれる、甘く優しい声とことば。

だけど、彼は冷血だった。

『お前はゴミ以下だな。ただのいらない子。』

「麗薇、好きだ。」

そうやって、甘いことばを囁く彼も。

『みーんな思ってるよ?れーちゃんなんか生まれて来なければって。存在自体が疎ましいものだって。……お前なんか消えればいいんだよ。』

可愛い声と可愛い笑顔。

その裏に隠された、あたしに対する憎悪。

ずっと、彼はそんなのではないと、思っていたのに。

「れーちゃんは、ずっと、僕のモノなんだよね?」

いまではあたしに威圧感しか与えてくれない。

『触んなよ、穢らわしい。』

そういって、やっと掴んだあたしを強く殴って振りほどいた。

ただ、優しい彼だったのに。

あたしを、支えてくれていたのに。

「麗薇。俺はずっと、変わらないから。」

あたしを嫌いなんでしょ?

『俺はお前が嫌いだ。勝手に勘違いしてたのはお前だろ?俺の本命は”亜衣梨”だよ
俺は、亜衣梨を愛してるんだ。お前なんて消えてなくなれ。』

1番、好きだった。

1番、愛してた。

世界で1番初めに好きになった人。

愛の全てを、教えてくれた人。

自由を教えてくれた人。

あたしには怖くて、こわくて、仕方ない。

「いややややややややややぁぁぁぁぁぁ!」

昔の記憶が、あたしの頭の中を犯していく。

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