深紅の薔薇姫に愛を
『んだ、てめぇ。』

俺はふらりと立ち上がり、そいつに近づく。

レベルが違うことなんて見たらわかる。……こいつは相当やるやつだと。

だけど、ここまでしてしまっては引き返せなかった。

ただ、殴って殴り返されるだけ。

俺は拳を握り、強く振りかぶった_____。


パシッ


『やめとけよ。俺はお前みたいな未来のあるやつフルボッコしたかなねぇよ。』

力が抜けて、床にへたりこんだ。

『今のお前には、戦う理由なんてねーんじゃないのか?』

彼は俺の髪を鷲掴みにし、無理やり顔を上げさせた。

確かに理由なんてない。ただ、自分のストレスを発散したかっただけだ。

『ケンカは八つ当たりでするもんじゃねえ。守りたいものを守るためにするんだ。お前には、それができるだろ?』

……正直わからない。

だって、守りたいものなんてないから__。

『今はなくても、いつかわかるさ。……お前にも、”大切なもの”ができる。』

そいつは俺に希望を与えてくれた。

優しく差し出されるその手を取ったのだ。

『俺を変えて欲しい』

そう呟いた言葉を、その人は聞き逃さなかった。

その人、相良(さがら)さんが俺を変えてくれた。

”井上相良”という名はここらへんでは親しんだ名前だった。

当たりを占める”蘭”という暴走族の総長。

まだ、今のように東西南北なんて別れていなかった。

相良さんがここを納めているのはあまり前で、どの不良どんなやつもなにも言わなかった。

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