深紅の薔薇姫に愛を
「会いたかったよ、麗薇」

金髪碧眼の目の下のホクロに、甘いマスク。

それから、とろけるような甘い笑み。

……あたしは、この顔を、知っている……。

あの日の、あの思い出の片隅にのこるあたしをみる少年だ……。

この人が、……”雫雲”…。

「ほんと、会いたかった」

視線を横に移すと、琉がいる。彼も、あたしに笑顔を見せている。

その二人きりに、イマミヤが並んだのだ。

「麗薇、行くぞ」

漣があたしを引っ張って、3人の輪から引き離された。

「漣、俺ら側につかなくなったお前にはなんの価値もない」

雫雲が意味のわからない言葉を発したのと同じ頃、雫雲があたしを後ろから抱きしめたのだった。

……俺ら側につかなくなった漣ってどういうこと?

「麗薇、俺たちと共に行こう」

耳元で囁かれるのは、雫雲の甘い言葉。

「俺はずっと、お前が1番だったよ……。ずっと、ずっと麗薇だけを愛してる」

「あたしが、……1番……」

まるで呪文みたいに、あたしの中に入ってくる。

はっきりと抵抗をしないあたしに、漣は目を見張っている。

「俺のものになって……」

あたしの顔を覗き込むように、あたしに縋るように訴えてくる雫雲。

「……あた、しは……」

あたしには、漣がいる。だけど……どうして振り解けないんだろう。

「……麗薇…」

この声を、あたしは知っている。

あたしにオネダリをするときの、この彼の声を知っている。

前はあたしよりも小さいか同じぐらいだったのに、今はあたしのほうが低い。

「…愛してる」

海の底に沈むように……あたしは意識を失ったのだった。
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