罪を犯した織姫と、傷を背負った彦星は。
幼馴染、か。
当時はそんなこと一ミリも考えた事がなかった。
ただの腐れ縁で。なぜか毎年クラスが同じで。家も近所で。
でも、よく漫画にあるような家が隣同士であるわけでも、恋愛感情があるわけでもなくて。
ただただ、一番仲のいい男友達は翔だったんだ、と今更ながら気が付く。
そういえば一緒に秘密基地作ったっけな。
私の家に翔が来た事もあれば、私が翔の家にお邪魔したこともあった。翔の家は猫を飼ってて、翔は大の猫好きだった。
中学の時、体育の授業の時にバスケをして、私がゴールを決めたら翔が褒めてくれたっけ。
立ち入り禁止のベランダに出て、先生に一緒に怒られもした。
「あ―――――…」
思い出の引き出しと言うのは、鍵さえ見つかればすぐに思い出すことが出来た。だけどそれは、楽しい思い出ばかりではなく、思い出したくないものまで、出てきてしまう。
『コイツの母親って―――……』
「……」
それは突然で。
思い出の中にふいに現れた。
「海野?」
私の知らない声が、名前を呼ぶ。
『本当の母親じゃないんだぜ』
あの時翔を守ってあげられなかった事を、どうして忘れてしまっていたのだろう。