意味のない朝を楽しむコーヒーをインスタントの漆黒でいれてください
変な沈黙が生まれて。

それを、彼が破る。

「いや、まあ、入れてくれんなら飲むよ、コーヒー。嫌いじゃないし」

「そ、そう」

私は彼のことは嫌いじゃない。

意地悪だったりひょうきんだったり。

ついでにアホ臭くて朴念人で唐変木な堅物でも。

嫌いじゃない。

嫌いじゃないから、

「じゃあ、どんなコーヒーがいい? ミルクとかは?」

「あー、じゃあそうだなぁ」

「早く言いなよ」

「意味のない朝を楽しむコーヒーをインスタントの漆黒でいれてください」

「ぷ、なにそれ、無駄に長い。小説のタイトルかなんか?」

そんなわけのわかんないことを言っても、笑ってあげれる。

「なんだよったく、すぐそんな茶化すなよなぁ」

「あーら、茶化されるようなこと言うのが悪いのよー」

「あーあ、なんだいなんだいお前って女。かわいくねぇの」

「あっ、当人前にしてそんなこと言う?」

「ははっ、俺とお前の仲じゃん。でもまあ……」

「?」

「俺嫌いじゃないからな、お前」

「……ふうん。そっ」

そして私はインスタントのコーヒーをいれる。

だって私も、彼を嫌いじゃない。
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