ハーモニーのために
別れ
 合唱が終わり、三つの国の住人たちはそれぞれの国の音楽について語り合っていた。お互いの違いを認めつつ、自分の音楽の素晴らしさについて楽しそうに談笑していた。私はその様子を見て安心しながらアンティークショップを出た。外は相変わらずレンガの道が続いた世界だったが、少し先に四角い影が見えた。まるでドアを開けたときにできる影のようだった。さてはあそこから元の世界に戻れるのではないだろうか…。

「モニカ。」

後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた。振り返ると、クラリシア様が悲しそうな表情で立っていた。いつもの威厳はなく、少しでも握ったら壊れそうな薔薇のようだった。

「あの時は本当にすまなかった。モニカの言うとおりだった。それなのに、私としたことが。これからももっとクラシックのことについて学びましょう。私のもとへ帰っておいで。」

「クラリシア様…ありがとうございます。でも…」

「モニカ、ジャブルーに帰ってきて!」

その横からジャックが割り込んできた。

「もう俺の話なんて聞きたくないかもしれないけど、わかったんだ。モニカは特別で、ジャブルーのみんなにとっても必要な存在だってことを…!」

「やめておいたほうがいいよ。またろくな目に合わない。そんなことするぐらいだったら好き勝手にパープルムーンで過ごしていたほうがいいんじゃない?」

アゼイルがジャックとは別の方向から私の肩に手を置いた。私は三人を見て、深呼吸をした。

「お言葉ですけど、誰かに付いていくわけにはいきません。」

おそらく初めて聞く私の強い口調に、三人は驚きの表情を見せた。

「私には元の世界に戻ってやらなければいけないことがあります。どうやって戻るか、どのぐらいかかるのか、全くわかりませんが。私が元いた世界は、音楽がありません。芸術と呼ばれるものがないのです。書物や楽譜、資料はすべて焼き払い、人々は明日の生活のためにただ単調に働いているだけなのです。何も考えないのです。私がこの世界に来る前は、これらの資料を焼き払う仕事についていました。今思えば、なんて罪深いことだったのでしょう。けれど、私はこの世界にたまたま来て音楽に触れ、恋をして、自由という言葉を知り、たくさんのことを学びました。ここに残ることもできるだろうけど、私には使命があります。元の世界の愚行を正す。国に処罰され、糾弾されかねないことですが、これ以上大事なものが焼き払われていくことが許せないのです。」

初めて自分の想いを言葉にし、心が軽くなった。クラリシア様も、ジャックも、アゼイルも、全員がうなずいた。

「それならば、お前の世界の音楽を守ってきてほしい。」

クラリシア様がやさしく言い、私の背中を押した。彼女の青い目をしっかりと見つめ、私は振り返らずに四角い影のもとへと向かった。自分の国に帰り、音楽を守るために。


FIN
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