覚悟はいいですか
盛り上がる気持ちのまま紫織の会社前に着いてから、そういえば肝心の彼女に連絡していないことに気づいて、残業などしていたら公演に間に合わないかと焦り出す

俺自身はドライブや食事だけになったとしても全く構わないが、紫織が一番喜ぶのはやはりバレエを観ることだろう

彼女の一番の望みを最高の形で叶えることこそ俺の望みだ

すぐにスマホを取り出したところで社屋のエントランスから人があふれてきた。すれ違ってはまずいと慌てて車外に出て、帰路に就く人たちの中に彼女の姿を探した

連絡をすべきか、でも目を離した隙に見失う可能性もある
堂々巡りに焦りばかりが募って冷静な判断ができなくなっていた

ついにはオフィス内まで迎えに行こうかなどとバカなことを考え始めた時に、前を向いてきれいな姿勢で歩く紫織を見つけ、ほっとする

全く何をしてるんだか、仕事ではこんな思い付きで行動することなど無いのに…
段取りの悪さとケアレスミスの連続に自嘲の笑みをこぼしながら、彼女を呼び止めた


急な誘いだったが、思った以上に彼女は喜んで感動してくれたようだ

公演後もなかなか泣き止まず、そんな姿も可愛くて、できることならずっと俺の腕の中で慰めてやりたかった

最もあのまま一緒にいたら紳士的でない慰めになっていた可能性も否めないが・・・
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