覚悟はいいですか
「顔、緩んでますよ・・・」
呆れた声が聞こえ、ハッとした
慌てて手元の資料に目をやるが、隣からは盛大なため息が落とされる
「気持ちはわからないでもないですが、あまり暴走なさらないでください。
あの方の周りは思ったより、複雑なようですし」
釘を刺されてしまった
だが確認もしておかなければならない
飛行機の中なので誰に聞かれるかわからない
メモを取り出し、速記で会話する
『ジョルジュから連絡は?』
『はい。やはり北斗組は絡んでますね。黒幕はまだ確定できませんがかなり大物かもしれません。
万が一を考え、百鬼(ももき)を護衛に加えたいと思うのですが』
眉をしかめ、目を閉じてしばし考える。確かに百鬼なら申し分ないが、奴を動かすには兄に話を通さねばならない
俺の逡巡を見透かすように、志水がたたみかける
『ここまで調べてまだ黒幕にたどり着けないことが異常です。相手が動かせるのがやくざ者程度ならジョルジュで事足りますが、それ以上の組織が出てきた場合は難しいでしょう』
『そうだな。ならいっそのこと兄には黒幕の調査にも協力してもらおう。どうせ洗いざらい打ち明けなければならないしな』
兄の智(さとし)は実は天才的なハッカーだ。もちろん公の顔は海棠グループの跡取りだが、某国の諜報組織と契約を結び、協力する代わりに世界中の兄の命を狙う輩からその身を保護されている
俺が海外まで修行に行ったのも、海棠の中にも兄を守る組織をつくり、某国と合わせて二重の防御を完成させるためだ
兄ならあっという間に黒幕を暴き出すはずだ
志水も息詰まっていた案件に光明が見えて安堵したんだろう。その眼に力が戻ってきた
『それから最近になってそれとは別のグループが山口さんを監視しています。
ただ危害を加えるのでなく、どちらかと言えば保護対象として活動しているようなので、協力できるなら接触してみようかと』
『わかった。だが慎重に当たってくれ。万が一にも紫織を傷つけることの無いように』
「かしこまりました」
志水は了承を告げると、今やり取りしたメモを持って席を立った
内密の話が万が一にも漏れないよう、処分しにいったのだ