覚悟はいいですか
「違います!」
礼がチラッと目線を寄越した。私は全力で首を降り、否定する
「2年前にしたのはお見合いで、婚約なんて一言も言ってません。ちゃんと代理人を通じてお話ししたはずです!!」
「それは君の本心ではないだろう?」
あれだけのことがあったのに、まだ言うの!もうやめて!
「とにかくこれは紫織さんと僕の問題だ。海棠君には関係ない」
言外に邪魔者だと牽制する
確かに礼の立場を思えば、巻き込むのは筋違い
でもこの人と二人きりなんて絶対いや!どうしたら……
「関係なくないですよ。彼女は私の大切な人ですから」
礼はそう言って、私の肩を抱き寄せる
「大事な女が怯えているのに、放っておくなんてできるわけがない」
こんな時なのに甘い言葉で私を包み込む礼に驚いて思わず見上げる
目が大丈夫と言っていて、ふいに涙がこぼれた
途端に礼の顔が一気に険しく歪む
堂嶋は見つめ合う私たちに苛立って声を荒げた
「何を言ってるんだ!彼女は私の…」
「とっとと失せろ!」
地を這うような低い声
「な、な、な……」
堂嶋は口を動かすものの、言葉になっていない
「失せろっつってんだ!!」
「ひいいいいいっっ」
骨に響く礼の恫喝を初めて聞き、思わず肩がはねてしまった。と、同時に聞こえるひきつった悲鳴に目を向けると、大慌てで足をもつれさせながら堂嶋が走り去っていく
やがてその背中は通路を曲がり消えていった……