覚悟はいいですか
「…何言ってるの?」
思わず硬い声が出た
やっぱり婚約者がいるの?
その人と愛のない結婚をして、私は内縁の妻と言うやつになるんだろうか?
そんな、家庭を壊すような存在にはなりたくない
でも礼はできちゃうの?
とめどない妄想がグルグルと頭をめぐる
礼は落ち込む私をそっと抱きしめて「違うよ」と囁いた
半分涙目で見上げる私に、礼は笑う
「紫織と政略結婚するんだよ。
だって紫織も”ご令嬢”でしょ?」
「はっ?」
いたずらっ子のような眼で問う礼に、知らず間抜けな声が出た
私は迷い子のように戸惑い、やがてあることに気が付く
「礼、もしかしてうちの事、知ってるの?」
礼は大きく頷き、思いっきり笑った
「紫織の実家、北海道では指折りの牧場で、特にチーズのシェアは道内トップクラスじゃん!
山口牧場の熟成チーズ、俺けっこう惚れ込んでてさ、絶対俺の手で本州で売り出したいんだよね
それで何回も札幌まで出張してるんだけど、なかなか社長が会ってくれないんだ
この前、キャンセルされたの、あれ紫織のお兄さんの会社なんだよ
だから紫織と政略結婚となれば、未来の身内ってことで会ってくれるかなぁって」
やっぱりハンサムな人の笑顔は破壊力がハンパない
思わず見惚れて、不安な気持ちも吹き飛んでいく
気が付けば、礼に乗せられて私も笑顔になっていた