覚悟はいいですか

「紫織、よかったね」

ペンダントを手で抑えながら黙ったままの私に、ポツリと麗奈が呟く
私は黙って頷いた

何も言葉にしなくてもペンダントを包む指先で、麗奈には全部分かったのかもしれない
そんな風に思える位、彼女の表情は穏やかで優しかった

ふと見ると、久美子が茫々と涙を流している
え!どうした?何があったの?!

「く、久美子?」
恐る恐る声をかける
麗奈も気づいてぎょっとなった

「…ふえ~ん、紫織さ~ん…し、幸せになって、く、く、ください~」

「え?あ、うん、なるよ。ありがと」

「ふえ~ん、でもでも、経理2課も見捨てないで~」

「う、うん。もちろん…」

「うわ~ん!どうしよう!!」

いったい全体、何がどうしたんだ!?

「だって、紫織さん、海棠の御曹司と結婚したらっ、らっらっ、仕事辞めちゃうでしょ~?
そ、そしたらもう、華の修行、なんて、してもらえないいい~うっく、ひぃっっく…」

まあ、それはそうなんだけどね…私も辞めたくはないけど、こればっかりは仕方ないかもと思ってる
礼は今でも忙しいし、これからもっと忙しくなるだろう
なら、家庭を守り支えることは私の役目だ
礼は普通の社員じゃなくて、会社を背負っているんだから
もし私も仕事を続けられるとしても、それはAthenaじゃなく海棠で、ってなるんじゃないかな…

やっぱり会長のように生涯現役で貫くには、独身を通さないと難しいのかも

しかし、久美子って泣き上戸だったのね……
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