覚悟はいいですか

《side 紫織》

ハッとして顔をあげる

まさか、試練って誘拐されてから今までの全部がそうだったの……

愕然とした私の肩に、綾乃さんがそっと手を置いた

ゆっくりそちらを見れば、気遣わし気に私を見てる

「もちろんですよ。詰めは甘いですが……」

薫の口調は朗らかで優しいが、言ってる内容は鋭く深いところを刺してくる

「それは…、面目次第もございません」

礼は悔しそうに俯いてから、そっと目線をあげて私を見た

「まあ、今回は相手が相手ですし、最悪の事態を免れただけでも幸運かもしれません。
未然に防ぐことができれば文句なく及第ですが、それは私の落ち度でもありますので」

会長が沈痛な顔で話すと

「かの国が絡んでたんだ、薫ちゃんのせいじゃないぞ」

御前が急に声をあげて否定する

「元はと言えば堂嶋大臣が、自分の地位を使ってあの国との薬物取引を合法化しようと画策したのが悪い。
我が国を清国の二の舞にしようなどと、この国の民とは到底思えん諸行じゃ」

え、薬物って、なにそれ……

「しかもその隠れ蓑に薫ちゃんの会社を使おうなど、言語道断。
代々堂嶋家はこの国のために尽くしてきたから、当代も取り立ててやったというに、恩を仇で返した上に後ろ足で砂をかけおった。
儂もなめられたもんじゃ」

そう言って眉毛を下げ、悲しそうに私を見た

「2年前は気づくのが遅れて、薫ちゃんにも紫織ちゃんにもつらい思いをさせてしまい、申し訳なかった。初動が遅れたために証拠も不十分で、2年もの間、特に紫織ちゃんにはかわいそうなことをしてしまった。
ホンにすまなかったのう」

私に向かって、あの御前が首を垂れる
目の前のことにも、話の内容にもびっくりしたが、自分がそんな大事に巻き込まれていたとは!
あまりのことにフリーズしていると、御前が礼を見て話し出した

「じゃが、今回は海棠が十分な証拠を揃えた。儂らの方でも水面下で堂嶋の動きを探っていたし、紫織ちゃんを影で警護した。あのバカ息子が諦めるとは到底思えなかったからの。
案の定、華のうわさを聞いて動き出しおった。おまけにバカ息子が外国の傭兵を雇ったもんだから、そこからどの国のどこの組織が絡んどるか、すべてつかむことができた。

次男坊よ、堂嶋をどう処断するか、儂にまかせてもらえるかの?
思うところもあるじゃろうが、今後一切紫織ちゃんや海棠家に危害はないと約束する。
それで納得してくれるな?」

聞くふりをして、否やは言わせない言い方だ

礼が私を見る
私は自分がどうしたいか考えて、礼に頷いた
今後関らなくて済むなら、それで十分だ。むしろ、自ら制裁を加えることなんてごめんだ

私の考えをお見通しの礼には、それだけで十分伝わった

「委細、承知しました。く・れ・ぐ・れ・も・厳しい処断をお願いいたします」

御前にしっかり釘を刺しつつ、了承の意を伝えた

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