覚悟はいいですか
困惑して一人百面相する私に、礼が苦笑しながら続けた
「うちはそれぞれ得意分野を家族で分担してるんだ。
父はデベロッパー(土地開発)担当。俺は今のとこ事業開発部長って肩書だけもらって、新規事業立ち上げの名目で好きなことやらせてもらってる。社にとって重要な案件は関わってないから、比較的自由に動けるんだ。
新規のリゾート開発会社を合同で一から立ち上げるとなると大仕事だし、父の代理として海棠家の俺が出向しても不思議はないよ。
婚約者になれば後ろ盾として社内外共に紫織を守れるし、君も動きやすくなるだろう?
ついでに虫よけもできる」
む、虫よけ??
「ふふっ、ご馳走様。礼さん、末永く山口さんを支えてくださいよ」
「はい。もちろんです」
終始笑顔だった会長が、最後の一言だけ刺すような視線を礼に向けた
礼は怯むことなく真剣な顔で返す
私はあまりの急展開に驚きつつも、海棠にとっても重要であろうことを即答する礼に確かめずにいられなかった
「礼、ほんとうにいいの?お兄さんを助けるって」
「言ったはずだよ。俺は全部を守れるようになって帰って来た。
もちろん今度のことで自分の甘さは十二分に理解した。でも諦めない、二度と君を傷つけない。
紫織がそばにいてくれるなら、俺はいくらでも強くなる。
君は望む通りの道を進んでいい。俺がその夢ごと守ってやる。
君の笑顔こそ俺の望みで、生きる全てだ」
「れ、い……」
礼の真摯な言葉と優しい瞳が、私の心を痺れさせ、トンと背中を押した
大丈夫、礼と一緒なら、ずっと手を携えて新しい道を拓いていける
そう信じることができる、礼のことも、自分自身もーーーー
「覚悟ができたようね?」
「はい。よろしくお願いいたします、会長、御前も」
礼と共に、改めて頭を下げる
「はっはっは。任せなさい!」
「こちらこそよろしくね」
偉大な先達を前に気持ちを引き締めながら、改めて自分はなんて人に恵まれてるのだろうと感謝したーーー