覚悟はいいですか
車窓から眺める街はすっかり夜の闇に沈み、気の早いショウウィンドウにはハロウィーンのディスプレイが目立つ。礼と再会したときは、今の時間ならまだ外は明るくウィンドウはマリングッズがあふれていたのに、季節の移ろいはホントにあっという間だ

そう言えば学生の今時分は、学園祭での発表会に向けたサークルの練習が本格的になって、そこにテスト準備も重なり、殺人的な忙しさだったにも関らず、ハロウィンパーティーをやろうと誰かが言い出して・・・
今じゃ絶対無理!ッてくらい何日も徹夜して騒いだりしてたなあ・・・

「何か楽しいことあった?」

ふとかけられた声に、我に返る。窓ガラスに映る自分に焦点が合うと、ガラス越しに礼がチラッとこちらを見てからハンドルを切った

どうやら学生の頃を思い出して一人笑っていたらしい

「ちょっと学祭のことを思い出して」

「学祭?」

礼は思い出しているのかちょっと無表情になり、すぐ「ああ」と言って眉間にしわを寄せた
しかめっ面までかっこいいってどんだけだよと、心の中で突っ込みながら、フロントガラスの彼に笑ってしまう

「礼は大変だったよね~。初心者なのにいろんな人から出演してくれって引っ張りだこで」

「思い出したくねえ・・・」

「フフッ、スポーツ万能だから、みんなダンスもお手の物だと思ったんだよ」

「買いかぶりすぎ。ステップひとつまともにできないのに」

「でも2年の時はひと通りこなしてたじゃない」

「鍛えられたからね~「綾乃さんに!」」

ピッタリハモッて、ガラス越しに目を合わせ笑った
チェリーレッドの艶やかな唇から真っ白な歯を覗かせる麗しい笑顔に内心ドキッとして、一緒に笑いながらも目線をさりげなく外した

それから学祭の時の思い出や、仕事の話をしているうちに、車はライトアップされてひときわ幻想的に佇むビル群の中へ吸い込まれていった
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