覚悟はいいですか
第一幕では村娘ジゼルが身分を隠して近づく貴族のアルブレヒトと恋に落ちる。だが、アルブレヒトが公爵令嬢の婚約者にキスをするのを見てショックのあまり錯乱し、ジゼルは息絶える

休憩を挟んで始まる第二幕は森の墓場のシーン。
ジゼルはウィリー=精霊になり、裏切った恋人を他のウィリーたちから最後まで守ろうと踊り続け、やがて朝の光の中、墓へと帰っていくーーー

悲劇だけど、とても穏やかな気持ちになれる物語だ

モノクロ写真のようなほの暗い舞台に、白いヴェールのロマンティックチュチュをまとったウィリーたちが踊る、幻想的な群舞の美しさに酔いながら、ジゼルという女性の一生に思いを馳せる

自分が恋を知る前は、なんで恋人に裏切られたくらいで死んでしまうのか分からなかったけど、今なら分かる
8年前、想いが通じなかっただけでもう立ち直れないと思ったし、礼と連絡が取れなくなったと知った時は食事も喉を通らなかった
ーー傍から見ればまさしく狂乱の日々だろう

そして・・・隣の人をそっと見て思う
星空の下、礼はずっと好きだったと言ってくれた
でもそれは彼の本当の気持ちだろうか。少なくともあの時は告白を断ったのだ

一説にアルブレヒトは生前のジゼルを本気で愛してなかった、とも言われている
ジゼルは世界の全てをかけて彼を愛してしまったから、その愛の大きさに彼は呑まれジゼルに応えてしまっただけ。それが愛しているように見えるのだろうと

あの時、言わなくても私の気持ちは近しい人たちにはバレバレだった。礼も薄々は感じていただろう
それに私と彼の距離はとても近かった、自惚れを承知で言うならば異性としては一番そばにいた

だから、そんなに近かった私の気持ちが伝染して、そのうえ私を傷つけたくないと思う彼のやさしさー友愛の情ーを愛情と勘違いしたまま、年月を重ねて好きだと思い込んでしまったのではないか・・・

ステージではジゼルの霊とアルブレヒトが互いを求めながらも触れ合うことなくすれ違っている
アルブレヒトに精霊を見ることはできず、二人が互いに見つめ合うことはない

こんな風に私たちの思いも重なるようでそうなることは永遠にないのかもしれない・・・

ふと、涙がひと筋、頬を伝う。礼が気づいてそっと指で拭ってくれた
舞台に感動していると思っているのだろう、とても優しく微笑んでいる

いっそ重ならないこの思いも涙と共に全部流れてしまえばいいのに・・・
< 95 / 215 >

この作品をシェア

pagetop