華雪封神伝~純潔公主は堅物武官の初恋を知る~
序章 封禍王の遺言
 ――宝迦国の初代皇帝は、諱を封禍王と号する。

 かつて、天と地の狭間が曖昧だった頃。
 天界で罪を犯した神々が、この地上へ降り立った。荒ぶる神々は嵐を呼び、あるいは日照りを起こし、人々を苦しめたという。

 そんな神々と対峙した若き日の封禍王は、元々はどこの生まれとも知れない、無位無官の青年だった。一説によれば、彼は深山幽谷の奥で息づく樹霊と人の間に生まれた、半妖だったという。

 事実、彼は人の身でありながら神仙さながらの道力で、すさまじい威力を持つ数々の宝貝を操り、宝迦国の大地に荒ぶる神々を封じた。その数は、八柱。
 彼らは、地上に天の七つ星と、その添え星を描くように建てられた祠に、それぞれ封じられたのだ。

 だが、八柱の神々は、決して消滅したわけではない。自らを封じた封禍王にすさまじい恨みを抱き、今も祠の奥で解放のときを待っている。
 それゆえ、のちに宝迦国の皇帝となった封禍王は、自らの子孫に向けてこう言い残した。

 我が血を引く者たちよ。
 この国に眠る神々の、余に対する恨みはあまりに深く、そして濃い。
 もし彼らが目覚めるときあらば、そなたらすべての命を奪わんとするであろう。
 心せよ。そして、すまない。
 余が自らこの身で受けるべき報いを、咎なきそなたらに背負わせてしまうこと、どうか許してほしい――。

 荒ぶる神々が眠る宝迦国において、皇帝というのは為政者にして最高祭祀者。そして、神々の禍から国を守るための、人柱。
 栄耀栄華と引き換えに、神々の呪いを誰よりも強く引き受ける者。

 それゆえ、宝迦国の皇帝は代々男子にのみ引き継がせることと定められていた。
 神々が解放のときを迎えたとき、その手に武器を取り、神々と対峙しその禍を封じるには、やはりより強靭な肉体が必要なのだ。

 ……だが、世界に起きるすべては、つねに人々の思惑を越えるもの。
 これは、荒ぶる神々の復活に際し、自ら立ってさまざまな苦難を乗り越えた、若き公主の物語である。
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