DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
「これって、ジ・エンドだよね?」
幸いなことに、囲まれてはいない。
おれは抜け殻の群れを背にして走り出す。
「ま、待って、長江先輩!」
鈴蘭は足をもつれさせながら動こうとした。
でも、抜け殻が迫ってくるほうが速い。
期待してたんなら悪いんだけど、おれに鈴蘭を助ける意思はない。
最初からそのつもりだった。トカゲのしっぽ切りってやつ。
「見るからに弱そうで、しかも血の匂いなんかさせてたら、寄ってくるにきまってんじゃん」
抜け殻は生者だ。
死んではいない。
心臓も脳も正常に働いている。
じゃあ、何が抜かれた後の抜け殻かというと、胞珠だ。
B級映画のゾンビよろしく、締まりも血の気もない顔して押し寄せてくる連中の姿をじっくり見れば、眼球や指がないのがわかる。