DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
道の真ん中に、ほっそり華奢な後ろ姿があった。
不健康な色の蛍光灯の下で、ショートボブの黒髪がツヤツヤしている。
「さよ子ちゃん、だよね」
おれの声はコンクリートに反響して、わんわんと奇妙なこだまを引きずっている。
おれはさよ子のほうへ足を進めた。
じわりと、胸にあせりが湧き上がる。
声を掛けたのに、聞こえていないはずもないのに、どうして振り向かない?
もう一度、呼んだ。
「さよ子ちゃん」
音ではない声でも呼んだ。
【さよ子ちゃん!】
返事はない。別の音が聞こえる。
エンジン音だ。高速走行の爆音。
あっという間に接近してくる。
影が乱舞した。
ヘッドライトが壁を照らした。
次の瞬間、真正面から光に目を射られる。