DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
おれは薄笑いをこしらえて、親父と向かい合った。
「連絡した覚え、ないんだけど?」
「無事に帰ってきてくれて安心したよ。車に乗りなさい。ひとまず家に帰ろう」
「帰んないよ。てか、あんたの家はおれんちじゃないから」
「理仁」
「とりあえず気が向いたときに学校には顔出すからさ~、積もる話があるってんなら、そんときでよくない? あんたも平日は学校にいるでしょ、理事長先生」
イケメン紳士の名前は、長江孝興《ながえ・たかおき》。
多様なコースを持つ割にリーズナブルな学費で有名なマンモス私立校、襄陽学園を経営している。
裏でもたぶん何かやってる。胡散《うさん》くさいこと、いろいろ。
その息子であるおれ、長江理仁は、親父にとって便利な道具だった。
だから逃げた。一年前、姉貴と一緒に、国外に。
なのにどうして帰ってきちゃったんだろうなって、親父の顔を見た瞬間、おれは後悔した。
直感に従って行動しただけだったんだけど、今回のこれはやっぱ失敗だったんじゃないか。