DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―


「理仁、パスポートと航空券、すぐ出せる?」


「ん、出せるよ」


「忘れ物してない? 前、ポケットに突っ込んでたスマホ落として、大騒ぎしたでしょ?」


「だいじょぶだって。今回はポケットじゃなくてカバンに入れてるし、大事なモンは肌身離さず首から提げてるし」



神経を澄ませると、わかる。


おれの心臓のすぐそばで鼓動する朱獣珠のリズム。


人間に似た体温を持つ、硬い石の感触。


直径二センチちょっとの、小さいくせに重たい存在。



朱獣珠は、おれが預かるべき大事なモンだ。


同時に、おれにとってこの世の何よりも恐ろしくておぞましい相手でもある。


朱獣珠に罪はないけど、いまだに恐怖の夢を見て飛び起きる。


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