DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
細身で黒髪の男だった。
異様にしなやかで素早い身のこなしが強烈に印象に残った。
姉貴が言うには、銃撃を正面からかいくぐって、敵の顔面を蹴っ飛ばしてノックアウトしたらしい。
謎のヒーローってほどでもなかった。
知り合いの伝手を頼ってちょっと調べたら、在フランスの日本人旅行者情報にすんなり行き着いた。
「阿里海牙、十七歳の高校三年生、だったっけ? 国際学術交流だか短期留学だかで、たまたまあのへんにいたんでしょ。すっげー優秀っぽいけど」
「たまたまかしら? あの子もチカラを持ってたわよ。宝珠の預かり手なんじゃないかって気がした」
「まあ、並みの人間の動きじゃなかったしね~、朱獣珠が反応するのも感じたし。でもさ、姉貴、十七歳男子に対して『あの子』とか言うの、どうかと思うよ」