DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
電車が玉宮駅に到着する。
レトロなヨーロッパ調の外観。
まあ、ヨーロッパの実物を見てきたおれからすると、やっぱ日本だなって思うけど。
ゴミ落ちてないし、ドブくさくないし、ネズミいないし。
あの駅前は、何度かライヴを聴きに行った。
条例で、高校生以上のストリートライヴが許可されてるエリアだ。
親友がギター持って、ベースとカホン連れて、爽やか系の曲を披露してた。
ほんとはあいつ、ヴォーカリストじゃないんだけどね。
ヴォーカリストは年齢制限に引っ掛かっちゃうんで、同じく年齢的にアウトなキーボーディストと一緒にお留守番してたそうで。
五人そろった本物の音を聴かせてもらう約束だった。
それを果たす前に、おれは日本から逃げ出す羽目になっちまった。
そのまま、ほぼ連絡なしで一年。
「やーっと約束が果たせるね、文徳《ふみのり》」
金網フェンス越しの景色を一望しながら、ひとりごとをつぶやく。