DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
「その声のチカラを、また貸してくれないか?」
襄陽学園の「塔」から見晴らす眼下には、いびつな街並みが広がっている。
昔は複雑な道筋が迷路みたいで、それがまたおもしろくて風情があるってんで、全国的にも有名だったらしい。
キレイな港町だったんだって。
清潔で、公園も街路樹もあって、川の水も澄んでいて。
今では、道路にせり出して建つ自己主張の激しいビルもあり、吹っ飛んで崩れたビルの跡地が平らに均されて道路に変わっちゃったところもあり。
緑はないし、隣町との間を流れる川はほとんどドブだ。
スズメバチの巣にそっくりな、俗に言う「ダンジョン」が、そこかしこにある。
折れたビルが茶色く膨れ上がっている。
瓦礫《がれき》の山を呑み込んだダンジョンが道路をふさいでいる。
「きったねー町」
おれは吐き捨てた。
あっちこっちにボコボコ発生したダンジョンを見ればわかるとおり、治安もどんどん悪くなってるそうだ。
何せダンジョンってやつは、何人もいっぺんに死なないと形作られることのないモノだから。