DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
サウンドチェック、チューニング、音量調整、と流れるように準備が整っていって、メンバーが牛富にアイコンタクトを送る。
牛富はうなずいて、手早くパソコンを操作した。
スピーカーから流れ出すドラムの音色は、心地よいエイトビート。
すかさず、ギターの文徳《ふみのり》とベースの亜美が乗っかる。
雄がオーディエンスの手拍子を煽《あお》る。
真っ当なロックンロールだ。
ストレートな響きが、正面からズドンと意識を撃ち抜きに来る。
心臓の鼓動がリズムに同期する。
体温が上がるような、呼吸が弾むような、高揚感が体じゅうに満ちていく。
「腕、上げたじゃん。もともと文徳のギター、すげーうまかったけどさ~」
でも、ただうまいだけじゃないんだよな。
人を惹き付ける何かがあるんだ。
何をするときよりも楽しそうな顔で、文徳はギターを弾いてる。
吹っ切れたような疾走感。
ときどきギュンッと激しくひずませるのがアクセントになって、オーディエンスを油断させない。