DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
ヴォーカリストの煥《あきら》は、まだ隅のほうでじっとしている。
瑪都流のサイトやSNSで告知してあったライヴ開始の時刻まで、あと五分くらい。
それまではインストで空気を作っておいて、セットリストは時間キッカリに始めるつもりらしい。
電車が駅に滑り込んできた。
と同時に、おれのスマホに届くメッセージ。
〈今、着いた〉
姉貴だ。
友達のバンドのライヴに行くって言ったら、姉貴もライヴに興味を示した。
もしかしたら、姉貴が興味を持ったのは、瑪都流の音楽じゃなくて、おれが「友達」って呼ぶ相手のことかもしれない。
レトロなヨーロッパ風の駅舎から流れてくる人波の中で、朱い髪をした長身美人の姉貴は目立っている。
おれはちょっと手を挙げて、姉貴に合図を送った。
姉貴が同じ仕草で応じる。