DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
そのとき、後ろから声を掛けられた。
「あっ。理仁《りひと》先輩、でしたっけ?」
おれは振り向いた。
さよ子がいた。
外灯のくすんだ光の下でも、ショートボブの髪にはツヤツヤの天使の輪が見て取れる。
「さよ子ちゃん。やっぱ聴きに来たんだ? 鈴蘭ちゃんと一緒?」
「はい! だって、ライヴだったら、煥先輩のこと見つめ放題ですもん。すーっごく楽しみです!」
「張り切ってるみたいで何よりだけど、このへん治安がよくない場所もあるから、気を付けなよ?」
「パパと同じこと言うんですね。大丈夫ですよ。わたし、ボディガードいますから!」
「頼もしいなー。ボディガードって、さよ子ちゃんのファンクラブ?」
「違いますって! ファンクラブなんて、そんなのいませんもん」