DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
埃に汚れたガラスに目を凝らせば、おれの顔がうっすらと映っている。
生まれつき朱みがかった髪と、額のほとんどを占める朱い胞珠。
こんだけデカい胞珠はめったにない。
少なくとも、おれは今までの人生で一度しか、おれと同レベルの胞珠の持ち主に出会ったことがない。
姉貴の死体のそばにいた、あいつだ。
胞珠は、左右どっちかの目の中にあるか、手の指の爪のどれか一枚の代わりか、ってパターンが多い。
姉貴は、淡いピンク色の直径二センチくらいの胞珠が左胸にあったから、ちょっと珍しい部類だった。
エレベータが動く音がする。
塔のエレベータを使えるのは限られた人間だけだ。
親父だろうな、と思った。
おれのこういう勘は、恐ろしくよく当たる。
エレベータのドアが開いた。
ほらね。親父が大げさな様子で両腕を開いて、百点満点の笑顔を作っている。
「ここにいたんだな、理仁《りひと》。授業中に抜け出すとは、感心しないぞ。でも、理仁が約束どおり学校に出てきてくれて、ホッとしたよ」