DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
姉貴がささやいた。
「ステキなバンドね。いい曲」
横顔を見下ろしたら、目がやけにキラキラしていた。涙だ。
姉貴はさりげなくおれから顔を背けた。
くるっとカールしたまつげが、せわしないまばたきに揺れる。
細切れにされた涙が、ラメみたいにマスカラの上に引っ掛かった。
同じこと思ってたのかな、姉貴も。
一年ぶんの親不孝への後悔。
意識がないんじゃなくて人格だけ眠っている。そんなタイプの植物状態がある。
目が開いていて、定期的にまばたきをして、体を起こしてやったら腰掛ける体勢を保持できて、眠くなれば目を閉じて眠って。
だけど、呼んでも手を握っても、応えない。
ものを飲み込むのは、最初からうまくできなかった。
チューブとか点滴とかで命をつないで、ちょっとずつやせて弱っていって、小さな変化を毎日見に来るんだったらおれも気付かなかったかもしれないけど、一年だ。