DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
右手の親指のショッキングピンク。
親父は、あの胞珠のある手でいつだって大げさにジェスチャーしながらしゃべるけど、おれは、あの手が高くひるがえるたびに背筋や胃の底に冷たい震えが走る。
叩かれた記憶と撫でられた記憶。
うずくまって吐きたくなる。
「何か用?」
「今夜は家に帰ってくるだろう? 久しぶりに一緒に食事をしよう。いいレストランがあるんだ。おまえの好物を作らせよう。
できれば、姉弟ふたりとも無事に帰ってきてほしかったがね。覆水盆に返らずだ。あの子のことは仕方がないとして、今後について考えよう」
うざい、と思った。
【失せろよ。姉貴のこと、二度と口にすんな】
額の胞珠が、カッと発熱する。
音を伴わない声を、まっすぐ親父へと飛ばした。
思念を太い槍に変えて、その槍で腹の真ん中をぶち抜いてやるくらいのつもりで、おれは言葉を投げ付けた。