DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
ストリートライヴの熱の余韻が、だんだんと引いていく。
オーディエンスが解散し出して、瑪都流の楽器や機材の片付けもほぼ終わった。
おれたちは、ようやく人波の中心から解放された文徳と煥のところへ行って、初対面同士で挨拶を交わした。
込み入ったことを話す暇はなかった。
駅前のロータリーに、上等な国産の電気自動車が静かに滑ってきて止まった。
さよ子が髪を弾ませて、車のほうに手を振った。
「お迎えが来ちゃいました。あの車、パパのです。海牙さん、行きましょ?」
「遠慮します。ちょっと本屋に寄ってから自力で帰りますから、総統にはそうお伝えください」
「はーい。迷子にならずに帰ってきてくださいね」
「なりません」
「方向音痴のくせにー」
「自宅で迷子になるきみにだけは言われたくありません」
「だって広いんですもん。じゃあ、皆さん、また今度! そろそろ、さよ子、行きまーす!」