DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
さよ子がカバンを提げて歩いていく先で、車の後部座席のウィンドウがスーッと下がった。
そのとたん、チカラを感じた。
【どうもこんばんは、四獣珠の預かり手の諸君。娘がお世話になっているね】
思念による声だ。
おれが使う号令《コマンド》と同じで、号令《コマンド》よりもはるかに大きなチカラを秘めた声。
何者なんだ、と思った。
声が答えた。
【私は平井鉄真《ひらい・てっしん》という。さよ子の父だ。
きみたちのアドバイザーになれるかもしれないが、今はそのときではない。まだもう少し、きみたちが自力で得るべき情報がある。
いくらかの時を経て、きみたちは再び私と会うことになるだろう】
海牙はさっき、平井のことを「総統」と呼んだ。
「総《すべ》て統《す》べる」ってのは正しい呼び名だと、おれは直感的に思った。
暗がりの中で、うっすらと顔が見えた。
微笑んでいる気配があった。